始まりの刻

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その行動は間違いなく投げに入る初期動作。しかし、すでに下から押し上げられて足が地から離れていたグランにはどうすることもできなかった。 「はぁっ!」 「ぅおプスっ!!」 頭から地面に叩きつけられるような形で背負い投げを受けたグランはまさに脳天杭打ち。少し地面を顔面で削ってから、ドサリと仰向けの状態で倒れてしまった。 「慢心は心を鈍らせる。その一瞬の隙がグラン、お前の敗因だったな」 「お、おふ…っ、傲ったのは認めますけど、ただでさえ低い鼻がこれ以上低くなったらどうすんですか……」 助け起こしてもらいながら、グランは涙目でヒリヒリと痛む鼻を擦る。 数ヶ月に一度くらいしかないであろうせっかくのチャンスも虚しくふいにして、またもや全敗記録が更新されてしまったというわけだ。 見ていられないくらいにダークオーラを振り撒きながらガックリとうなだれるグランを慰めるようにウルスラはその肩に手を置いた。 「精神と体術の面はまだまだだが、私に得物を落とさせたのは見事だった。これからも、しっかり精進するんだぞ」 「し、師匠……」 これが夕陽の浜辺であったのならばもう少し絵になっただろうが、残念なことにまだまだ陽は高く、そしてここは深い山奥である。 ちょうど良い高さにある弟子の頭髪をしばらくクシャクシャに乱してから、ウルスラはその土にまみれた顔を見て笑った。 「まったく、すごい顔だな。早く顔を洗ってきなさい」 「わっかりました!」 すなわち、今日の稽古は終了ということだ。満身創痍にも関わらず、グランは飛び跳ねるように森の中にある清流へと走っていった。
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