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小鳥達のさえずりと暖かい日光の差し込むこの最高の場所は、グランと村の一部の子供しか知らない秘密の場所だった。
顔を洗い、さっぱりとした気分になってから美しい周囲の景色を眺めるのがたまらなく良いのだ。
今回もその気分に浸ってやろうとグランが軽く周囲を見回したその時、すぐ正面の茂みから見知らぬ誰かさんの顔がニュッと現れた。
茶色い革のフードをかぶってはいるが、そこから覗く清楚な顔立ちはまさしく少女のもの。
深い茂みに遮られて首から下は確認出来ないものの、宝石のように煌めくエメラルドグリーンの瞳や毛先を揃えたプラチナゴールドの前髪の合間に見え隠れするくっきりとした眉、控えめな小鼻といったあらゆる点が、まるで絵本の中から飛び出してきた美しい姫君のようだ。
だが、よほど山中を歩いていたのか呼吸は乱れ、顔のあちこちには細かい傷がいくつも目につく。
お互いに少し間の抜けた表情で固まったまま片時も目を離さずに見つめ合うこと約数秒、真上の枝から小鳥が飛び立った瞬間を合図に目の前の少女が先に動いた。
「いやぁ―――っ!!」
「えっ、えええっ!?」
こちらが何をするでもなく、謎の美少女は突然絹を一枚どころか五、六枚は軽く一度に裂けそうなほどの悲鳴を上げて茂みの中に顔を引っ込めてしまった。
一度は呆気に取られてしまったグランだったが、すぐにあることを思い出して立ち上がった。
少なくともこの周辺の住人ではないであろうあの少女が、あまり人の寄り付かないこの山に詳しいとは到底思えない。
この山は麓までの道中に岩場や切り立った崖もあって存外険しく、樹の間を抜けたら谷底へ真っ逆さまというのも珍しい話ではない。
しかもグランが知る限り、少女の向かっていった方向はまさしくその状況に成り得る場所へと繋がっていたはずだ。
「まっ、待った!そっちに行ったらダメだって!!」
慌ててグランが少女の後を追って茂みの中へ飛び込んだ時には、すでに少女の姿は樹の陰に消えつつあった。
そこを完全に曲がり切り、先にある茂みの壁を越えると少女は真っ暗な奈落の底へ真っ逆さま、そして次元を越えたあっちの世界へまっしぐらとなってしまうだろう。
それだけは男として回避させなければと、グランは山暮らしで培った猿の如き身軽さで少女のことを追跡する。
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