~第一話~

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『ばっ馬鹿… 照れてなんか…』 智也が紅いのを隠すように片手で顔を覆う。 ―――ピンポンパンポン… と、同時に鳴った放送を告げる鐘の音。 『2年2組の藤井智也。 至急生徒会室まで来なさい』 『は…?』 その鐘は、智也を呼び出すもので。 『智也…生徒会室だって』 呟いてから智也を見ると、 うんざりしたような顔。 『はぁ… 仕事はちゃんとやったぞ…?』 仕事の事で呼び出されたと思っているのだろう。 深い深いため息を何度もつく。 『大丈夫…?』 さすがに心配になった私は智也を覗き込んだ。 『…大丈夫だよ。 お前は先に屋上行ってろ。すぐ行くから。 いいか?誰に話しかけられても、絶対ついてくなよ?』 びし、人差し指を立てて一言。 『…うん、わかった』 その顔は真剣そのもので。 だから私も真剣に頷いた。 途端に智也の顔が安心したように緩む。 『…んじゃ、ちょっと行ってくる』 『行ってらっしゃい』 智也はまだ面倒臭そうだけど 『気をつけてね?』 『それはこっちのセリフだっつの。 俺が何に気をつけるんだよ』 ちゃんと行く所が意外に真面目だ。 ―――でも…私はこの時、 智也を行かせるべきじゃなかったのかもしれない。 行かせてなかったら… “あんな事”にはならなかったのに…――――。
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