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静寂の時を刻んでいた街が目覚め始める頃
突然携帯のメロディが鳴り響く
『もう起きる時間か…』
目覚まし代わりに携帯のアラーム
夢の中をさ迷い歩いてた俺はしばし目を閉じメロディを聞く
次の瞬間いつもとは違うメロディ音に気付いた俺はカーテンで光りを閉ざされた暗い部屋の中、手探りで携帯を探す
携帯を手に取り画面を覗く
そこには妻の名…
『もしもし?』
何故だ?応答がない
沈黙の中にザザーッと雑音だけが…
その雑音の中からかすかに妻の声が聞こえる
『…』
妻はかすれた小さな声で何か喋った
『えっ?何?よく聞こえなかった もう一度言って』
もう一度妻に尋ねる
『おとうが…』
妻は泣いてる様子で言葉を詰まらせていた
『お義父さんがどうかしたのか?』
そう問い掛けると妻は我慢してたものを堪えきれず、一気に泣き崩れた
数日前から聞いていた
『おとうと連絡が取れない…』
泣き崩れる妻の様子から状況は察知できる
しかし俺は心の中で否定し続けた
『夏休み久しぶり帰ろうよ おとう一人ぼっちじゃ淋しいよ』
出張前に妻と交わした約束
その前の年、お義父さんは最愛の妻を亡くし冬の寒さが厳しい青森で独り暮しとなってしまった
お義父さんは独身時代、神戸に出稼ぎへ、その何年か後故郷へ戻りお義母さんと知り合い結婚、後に9人の子宝を授かった
決して若いとは言えない年齢で地元のリンゴ園を手伝ったり冬は神戸へ出稼ぎに行き子供達9人を立派に育て上げられた
子供達は成長とともに故郷を離れ東京、愛知、富山とバラバラになり生活している
青森の冬は厳しくお義父さんの住む家は岩木山のふもと津軽平野の端の方にある
積雪の多い時には2階付近まで積もる事も
そんな冬に帰省するのは困難だと子供達は敬遠し春か夏に年1回帰省するのが3、4人
子供達が帰省して9人揃った事は結局一度もなかった
帰る度に兄弟全員揃わねぇかなぁとよく俺にぼやいていた
みんな揃うのを楽しみにしそして孫や子供達が帰省してくるのを心待ちにしていたお義父さん
『アンタ 帰ってきて おとう待ってる』
妻は泣きじゃくりながらそう言った
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