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「再会を喜ぶのは勝手だけど宴会まで持ち込まないでよ」
「はいはい。分かってるわよ。所で八尋」
萃香は適当に返事を返し八尋の額の角を握る。
「…………何故千年が此処に来たんだ?」
今の萃香の顔を見たら妖怪も裸足で逃げ出すであろう。その萃香に向かってあくまで冷やかな顔でいる。
「連れ出して来ました。この子の、願いを叶えに」
「八尋……」
千年が萃香と八尋を心配そうに見る。八尋の右腕に絡み付く。
「八尋。破ったのか。掟を。虎熊の奴のルールを」
「ええ。私はもう覚悟しています。この子を連れ出した時に」
「そうか。お前は本当に鬼らしくないな。主人の為なら鬼王の掟すら破る。全くどうして……あっはっは!」
萃香は角から手を放しの折れそうな背中をバシバシと叩く。「うげ」と小さく悲鳴をあげる。
「で、千年をどうするんだ。間違いなく、虎熊の奴は千年を取り返しに、お前を殺しに来るわよ」
「私は、もう覚悟していますと言ったではありませんか」
「千年を置いてか?」
ここにきて八尋の口が閉ざされる。その目には明らかに動揺と迷いがみられる。
「八尋。すまなかった。私のせいで、八尋が……八尋が……ぐすっ」
千年の前髪の隙間から見える大きな瞳から大粒の涙がポロポロと零れ落ちるのを見て鬼の二人は慌てふためく。
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