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暗い森の中を人影が駆ける。
暗闇、そしてその人影の着けている仮面のせいで、表情、容姿、性別、年齢は読み取ることが出来ない。
そして、人影は呟く。
「ハァ……ハァ……有り……得……ない……」
人影は、どうしてこんなことになったのか思い出していた。
それは、遡る事数時間前のとある屋敷にて起こったある事件の一部である。
真っ黒な服に身を包んだ男二人と女一人が廊下のような場所で話し込んでいた。男の一人はかなり立腹のようで、声にその怒りが伺ってとれる。
「あぁ? 侵入者? 田宮達はどうした!」
「皆正門の前に伏しておりました」
女からそう聞くと、立腹の男は更に声を荒げた。
「また酒でもあおってやがんのか!」
立腹の男が怒鳴り散らす、だが女は静かに返す。
「いえ。全員の四肢に短刀が突き立っておりましたゆえ、恐らく侵入者に……」
女の話を聞いたもう一人の男が顔色を悪くし女に尋ねた。
「あの、宮原さん……それ本当なんすか?」
「本当ですよ。神崎君は、私が嘘を吐くとでも思っているのですか?」
「あ、いえ……」
それだけ聞いてもう一人の男――神崎は口を閉じた。
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