◇小さき溝

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「ほぉ、もうそんなに……。いやいや、ということは何かね。私は十七の少年にこてんぱんに伸されてしまったわけか」 男は驚いたふうで少年を見る。それから、背も高く物腰も落ち着いていることから、てっきり二十歳近くかと思っていた、と口にした。 しかし亮の師範は、それは些か、と苦笑いを返す。 「あれは特別です。時代が違えば、さぞかし名のある剣客になったでしょう」 「特別、と言えば、君。佐奈ちゃんにも最近負けているようじゃないか。弟子たちが口にしていたぞ」 「はは。これは恥ずかしい」 佐奈の父親であり、師でもある彼は、面目なさそうに頭をかいた。 「どうだった?」 同門の仲間達と試合について話していた亮に、佐奈はタオルを渡して声をかける。 「サンキュ。やっぱり名人だけあって強かったと思う」 タオルで汗を拭きながら亮は答える。 「あぁ……。あんた打ちにくそうだったものね」
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