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電話の相手は亮と佐奈の小学校からの友人である星太からのものであった。
星太は今、部活の練習試合のはずなのに、何故か遠方の亮の試合の方が気になるようで、わざわざ電話をかけてきたのだ。
「まぁ、勝ちはしたけど」
道場の裏。池が見えるところにあった椅子に腰を降ろす。
『まじかよっ!その業界のトップレベルだろ?確か、なんとか流の一番の使い手とか……』
「新当流な。て言っても、うちも新当流の型を半ば継いでるようなもんだから、勝ってもなんとも言えないよ」
『あぁ、お前のやつは佐奈の親父さんが作った流派だっけか?てか、亮が勝ったなら継いじゃえよ、なんとか流』
「だから新当流……。というか、そういうわけにもいかないんだよ。それに俺自身、人の作った流派に従いたくない。……いずれは自分で」
亮は話しながら近くにあった石を池に投げる。
石はそれほど大きくもなかったが、水しぶきが自らにもかかり渋い顔になる。
しかし幸い、人に見られていないから笑われることはない。
「で、話したいのはそれだけか。本題じゃないんだろ?」
椅子に寝転び、亮は見えないはずの星太を空に浮かべて睨んだ。
『いや。お前の手伝いをしようかな、ってね』
――心なしか、先程かかった水がさらに冷たくなったような気がした。
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