呼び止める声

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

呼び止める声

ある意味、当たり前みたく突然だった。 何度も乗る電車の中で、転校して暫く会えてなかった友人と乗り合わすくらい唐突だった。 突然だった。 付き合って間もなかったあの頃だった。 どんな日も特別な日だったあの頃だった。 今もゾクゾクと浮かぶあの日のいつもの待ち合わせ場所。 僕は君が好きな花の束抱えて、待ち合わせ場所に少し遅れて向かってた。 ワクワク騒ぐ胸を抑えながら。 そして、 予定時刻10分過ぎに近づいたいつもの場所を覗いた。 先に待ってる君は居なかった。 早く来ないかな… 会いたい気持ちに騙されていたんだ。 気を付けて、なんてきっと本当に思っていなかった。 大事なのは遥かに君だったんだ、というのに。 今、見上げる雲は全て悪意に満ちているよ。 冷蔵庫みたいなんだ。 僅かに残ってた暖かみを全て吸い付くした、部屋が...笑っちゃうだろ。 窓の外では街が輝いてる。 もう本当に独りだよ。 どれもこれも血と涙で塗り潰す。 気付けば気を失って目覚めてる。 倒れる事は覚えて。 眠る事を忘れた。 そうした時によぎるのが幾度と無く励ましてくれた笑顔や溢れる温かさ。 ボンネットがへこんだ音。 かまびすしい野次馬の声とパトカーや救急車のサイレン。 花束を落とした灰色の景色。 全部が悶えさせて、自我を奪ってゆく。 しがらみ。 そんな言葉で片付けられたんなら、きっと明瞭な空を見上げている。 今も纏い、包む闇。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!