呼び止める声

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「ただいま~。あれ、今日は早くねっ」 ドアが開いて、いつもの明るい声が今でもこの世界中に響いて聞こえるんじゃないのか……。 仕事が早く終わったから…。 ひょっこり元気溌剌な笑顔を振りまいて帰ってくるんじゃないのか……。 「……」 この部屋の世界中には明るい声じゃなく沈黙が響いて、元気溌剌な笑顔じゃなくて虚無が帰ってくる。 大切な物を失って、心の中にしっかりと穴は開いて、闇の中に静かに沈んでいった。 ガチャ。 不意に玄関から音がした。 「っえ、そんなもしか」 光が闇を照らす。 ドアが開くその隙間から部屋に光が差し込む。 「おーい、生きてるかあー」 そんな日々でも朝は来て、生活するそれをなんとか支えてくれたのは家族だった。 「また朝から何も胃に入れてないんじゃないの?」 「………」 こんなふうに特に妹は世話を焼いてくれた。 そのお陰で病院送りは免れ、薬漬けにもされずにすんだ。 「料理するから、見ないでねっ」 「何それっ今から着替えるからこっち見ないっ」 「だから見ないでっ、あっファスナー上げて」 「だからなんで着替えみたくなっちゃってるんだよ」 こんな幾分の時と家族のお陰でだんだんと快方に回復していった。 やがて、妹の計らいにより妹が社長を勤める会社で働かせてもらえる事になった。 妹の会社はそれなりに実績を重ねて成功した。ありふれた会社であったが、いざ準備をして本社ビルに行ってみると、それでも見上げる事が出来る程の城はそびえ立っていた。 「なあ、この部署の役割ってさあ……何?」 「うーん、俺もわかんねえ」 唐突に声が響く。 「意外と重要な役割みたいらしいぞ、この部署」 二人は声のした方に首を回す。 「えっなんすか!?」 「お前らもこの本を見て少し勉強しろよな」 そう言うと二人に持っていた本をおもむろに投げた。 だが、二人は上手く取れずに落としてしまう。 本が落ちたパンと言う音と同時にこの部署をノックする、ドアを弾く音が、部屋に響いた。 「おはようございます」 私はコミカルな格好してこっちを見る三人に挨拶をした。 新たに生活のスタートをその日、私は切った。
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