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どう場を沈めようかと思っていたら、トキコさんから助け舟がやってきた。
「払ってくれるって言ってくれてるんだから、素直に甘えちゃったらどう?」
「で、でも・・・」
「ホラ、もうこの通り会計も済ませちゃったしね」
ヒラヒラと領収書を見せつけられた。
「どうしても納得いかないんだったら・・・」
プラスを後にして、一人夕焼けの沈む方角にある我が家へのバスの中で、プラスの領収書を目のまでに出して改めて見る。
カンジに後で請求するために受け取った領収書のつもりだったが、今となってはこれをカンジに渡すべきかを悩ませるものになっていた。
裏返しにすると、そこには可愛らしい字で書かれたメルアドがあった。
(今回は、オレのおごりだな。)
財布の中へと閉まったその領収書が、すっかり心許なくなったその厚さを補うのに十分のものへ変わっていた。
けど、このときはまだ失ったものがその厚さだけではないことに気づけなかった。
もしこの時、それに気づけたところで、きっと変わらないことだったんだろうな。
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