理想の異性が

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 うちは、実家に帰る用事で家を出た。車や家の鍵が下がったキーホルダーをチャラチャラ言わせながら駐車場へ向かう。  うちが車を止めている駐車場は、田んぼの横の草ボウボウ敷地。タイヤの轍だけが砂利というお粗末なスペース。  その草ボウボウの中に……どう考えても、空から落ちてきたとしか思えない姿勢で、男が倒れている。いや、本当に落ちてきたのかも知れない。  草のクッションとはいえ、稲科のザリザリした葉っぱの上に落ちてきたせいか、手足のあちこちに小さな擦り傷が出来ている。 「あのー……大丈夫ですか?」  一応、声はかける。何せ彼が退いてくれない事には車を動かせない。草と一緒に踏んづけて車を動かす訳にもいかないし。  何となく渡辺謙を若くしたようなその彼は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。切長の瞳が眩しそうにうちを見上げる。  ……ウハッ! モロうちの好みやん! …… 「うぅ、あ、貴方は?」  低く渋い声に、思わず身悶えしそうになる。だけどよくよく考えてもごらん、「貴方は?」って聞きたいのはこっちだよ。 「貴方はって……貴方こそ一体どうされたんですか?」  彼は手足を擦りながら自力で立ち上がり、辺りを見回した。どうやら見慣れない土地らしく、首を傾げる。 「あの、すみません……ここは何処でしょう?」 「は?……ここはF県M市ですが」  ……もしかして。記憶喪失? …… 「貴方、自分の名前は?」  うちは好奇心からつい、聞いてみた。彼は首を傾げたまま、空を見上げる。 「ここに倒れる前、何してました?」  彼は困った顔でうちを見つめる。  ……こりゃあ、本物の記憶喪失だぁ……  基本、お人好しのうちは、彼をまず警察署に連れて行った。 「この人、記憶が無いらしいんです。捜索願い出てる若い男性とかいませんか?」  ……うちはただ彼を「拾った」だけなのに、うちが根掘り葉掘り事情徴収を受ける羽目になった。拾う神にも苦難あり?  でも、申し訳なさそうにうなだれ、時折救いを求めるような目で彼に見つめられると……何とかしてあげたいと思っちゃう訳よ。  そうこうしているうちに、すっかりお昼になった。 「事情は分かりました。捜索願いは探しておきますから、一旦お引き取り下さい」 「お引き取りって……」  彼は習得物なのに、「一時預かり」じゃなくて、「お持ち帰り」って事ですか?
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