†…Love School…†

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      屋上にいる分だけ近くなる青い空。 そこに揺蕩(たゆた)う白い雲。 花びらを運んで香る風。 俺より空に近い君は、今にもその青さにとけてしまいそうで。 君は、何時もそこに居た。 俺が入学した頃から、俺が退院した後も、今もずっと。 君は空ばかりを見上げてた。 何かを待ち続けているかの様に。 “あの青さに、とけてしまいたい…” 君の好きな空の青さと広さが、君を癒して、哀しませてた。 だから俺も一緒に空を見上げる様になった。 君が何を見て、何を感じて、何を思っているのかを一欠片でも知りたかったから。 それが俺と、君の始まり。 「今日はいい天気だね」 俺が空を見上げながらそう話し掛けると君はそうだね、と相槌を打ってきた。 「やっぱり、こういう日はキミにとって絶好のテニス日和でしょう?」 「ああ。こんな天気のいい日は、ラケットを握りたくてしょうがないな」 「……そっか」 少し声を弾ませる君の声がして、会話が途切れた。 柵に手をついて見上げる空。 下の方では何時もより騒がしい声が聞こえてくる。 ……その中には、僅かに泣き声も聞き取れた。 けどこの季節だからしょうがない。 桜が色鮮やかに咲く季節だから。 今日は別れの日でもあり、旅立ちの日でもある。 けれど俺が卒業自体に淋しさを感じないのは、やはり同じ敷地内に高校があるからだろう。 俺が淋しさを感じるのはそれではなく、きっと、もっと別の事で…。 「………っ……」 ゴォッ、と横から吹き付けてきた強い風に髪を押さえながら花びらを空へと舞わせていくのを見上げた。 高く高く、花びらが舞っていく。 まるで空の青さにとけ込んでしまうかの様に、遠く。 それを暫く目を細めながら見ていた俺に、君が静かに話し掛けてきた。 「この三年間、沢山キミと話をしてたお陰かな…何だかね、身体がふわふわするんだ。頭から爪先まで。昔みたいに身体が全然重くないの。  ………空がね、とても近くなった気がするわ…」 その言葉に視線を、空から君へと流す。      
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