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フェンスの角に俺より背が一つ分程高い所で膝を抱えながら浮いている、俺達の制服と似ている様で何処か違う服を身に纏った君に。
その視線は真っ直ぐに空を見上げていた。
そこには入学して初めて会った時の様な憂いは一欠片も見えない。
……あぁそうか。
俺が淋しさを感じていたのはこの事なのかもしれない。
君は、やっと見つけたんだね。
俺が生まれる前からずっとここに居た君が、やっと見えてきた“道”。
『おめでとう』。
そう素直に言えればいいのに、言えない俺がいる。
この三年間…彼女の存在を知っているのは俺だけだった。
その事に、決して少なくはない独占欲を感じていた。
『空が近くなった気がする』。
君の言葉の意味を理解して、どうしようもない淋しさが押し寄せてくる。
そんな俺に気付いた君は、在校生や卒業生やらで賑やかになっている校庭を見下ろす俺に問い掛けてきた。
「どうしたの。何か言う事はないの?
それとも…私がいなくなったら、淋しい?」
「ああ……淋しいよ、すごくね。俺は…やっぱり、君が好きだから」
「………またそう言う…」
俺が校庭から君へと顔を向けてそう言うと、やはり予想通り君は呆れた顔で俺の方を見下ろしていた。
そうして何時もみたいに、俺の事を諭す様に話してくる。
「あのね、何回も言うけど、私に好意を寄せてくれてもそれを返す事は出来ないのよ?
私はその気持ちを返す事は赦されないんだから…」
「俺はそれでもいいって言ったら怒るかい?」
「はぁ…怒りはしないわ。ただ、もっと呆れるだけ。
……君、退院してきてから前より我儘に磨きが掛かってない?」
「自分に正直になっただけだよ」
あらそう…、と君は心底困った顔で溜息混じりにそう呟く。
けど、俺は君に我儘だと言われても構わない。
…実際にそうだしね。
俺は柵から手を放して君に近付きながら言った。
「ねぇ、ちょっと降りてきてよ」
「………?」
君は不思議そうな顔で抱えていた膝を伸ばし、俺が足をついているコンクリートの上へ音もなくふわりと降りてくる。
俺が、君がそんな風に降りてくる様も好きだと言ったら…また、君は呆れるのかな。
そんな事を考えながら同じ地に降り立つ君に歩み寄る。
こうして降り立てば、今度は君が黒い瞳で俺をじっと見上げてくる。
その眼は何処までも澄んでいるというのに、俺の制服や髪を揺らす風は君には届かない。
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