†…Love School…†

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      足元に影を落とさせるやわらかな陽射しも、君の影を落とす事を許してはくれない。 ……こういう時に改めて実感してしまうのがやはり哀しかった。 「で、降りてきたけどどうしたのよ」 「フフッ。  とりあえず……目、瞑らないでね」 「え……っ」 俺の言葉にきょとんとした顔をして見上げている。 そんな君に小さく笑って、触れる事無く素通りしてしまう君の頬に手を当てるようにして。 俺は少し背を屈めて君の口元に………唇を、寄せた。 ……奇妙な感じだった。 目の前に君がいるのに、まるでそこには誰もいないかのよう。 触れるものは、何もない。 …実際に、本当に“ここ”には存在しないんだけど。 息遣いがなかった。 温もりも、感覚も、全く無い。 それでも俺の心臓は正直で、煩く早鐘を打っている。 すぐ目の前には君がいる。 焦点が合わないけれど、少しずつ目を見開いて俺だけを見つめる君がいる。 触れられなくても、感じる事が出来なくても。 その目には空でもなく、他の何でもない俺だけをその目にいっぱい映しているんだ。 どうしてそれだけで、俺は嬉しく思えるんだろうな……。 まるで自分の心臓に耳を押し当てているかの様な錯覚になりながら、俺は体勢を直して君の反応を見た。 「ぇ…、……っ…!」 最初は呆然と離れていった俺を見上げていたけれど、次第に君は白い頬を赤らめていった。 やっぱり動揺してるみたいだ。 それもそうだよね。 だって、俺が君にキスしたから。 ただ、直には“触れられなかった”。 そう……たったそれだけの、事なんだ…。 「あ…あぁ、あ…っ…あ、あのね、キミ…! いきなり、何を…!!」 「何をって、何がだい?」 「何って、さっきの…く、ち……キ…ッ!!」 頬を赤らめながら口元に手を当てて、君は俺から顔を逸らした。 …初めて見たな、君がそうやって慌てる所。 見た目は俺と変わらない位なのに、君は何時も落ち着いていたから。 俺が何を言っても驚きはしなかった。 初めて気持ちを伝えた時だって…君はただ、困っていただけだった。 だからとても新鮮で、それがとても可愛く思えて…。 「ちょっと!? わ、笑ってないで、何であんな事したか説明しなさ…って、…!」 気がついたら君を腕の中に抱き締めていた。 …いや、『抱き締めた』というよりも『包み込んだ』という方が合っているのかもしれないな。      
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