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「………」
本当にそれはとても小さくだったけれど、確かに聞こえた言葉に…俺は口元に小さな笑みを浮かべた。
「…ぃ、……~っ!」
ふと聞こえた声に俺が君から視線を校庭へと向けた。
するとそこには卒業証が入れられた筒を片手に、こちらを見上げているとても見慣れた顔が並んでいた。
「んな所で何やってんだ~幸村っ!!
俺らずーっと人混みの中探し回ってたんだぞー!!」
「…早く降りてこいよ、お前が来るのを赤也達が待ってるんだ!!」
「……。
ああ! 俺も後から行く、だから先に「駄目よ」
言い掛けた言葉を遮る様に、君にそう言われた。
驚いて俺の腕の中にいる君に目を向ければ、まるで何事も無かったかの様に小さく笑っていた。
「もう君は行きなさい。
少しでも私と一緒に長くいようなんて思っちゃ駄目」
「けど俺は、」
そっと、君は俺の口先に人差し指を当てるようにして向けた。
細くて、長くて、触れられない指を…。
君はゆっくりと首を横に振りながら、何時もの様に俺の事を諭す様に話しだす。
「生者よりも、死者を選んではいけないわ。
私は貴方と共に行けない。けれど彼等はそれが出来る。貴方と同じ時を、同じ様に感じる事が出来る。
分かるでしょう? ……君が今、本当に大切にするべきものは何かなんて」
「…………」
ああ…君は本当に残酷な事を優しい口調で諭してくれる。
敢えて君が『選ぶ』という言葉を使った意味も、その真意も…。
暫く俺が口を噤んでいると、途中で何も言わなくなった事に下からは俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
そして、俺は君から腕を放し、フェンスに手を付きながら言った。
「……すぐに行くから、待っててくれるか!?」
「…ああ、はよ来んしゃい!!」
そう言うと、彼等は彼等で俺を待ってくれている間何やら話し出したようだった。
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