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「…………有難う……精一、君…」
小さく微笑みながら呟き、深く目蓋を閉じる。
身体の中がとても暖かくて、心地良くて。
まるで微睡(まどろ)みの中に沈む様な錯覚のなか。
零れ落ちた涙は足元に落ちる事無く、風の中へと四散した。
卒業して立海の高校に入学する下準備が整った頃。
新しく校内を整える為に立入禁止となっていて、それが明けた一週間後に中学の屋上に登ってみた。
けど……“彼女”はもう、“此処”にはいなかった。
ただ殺風景な屋上と、見慣れた街並みが広がっているだけだった。
風は、とても暖かくて穏やかだ。
降り注いでうっすらと足元に影を落とす陽射しも、風に漂う淡い桜の香も……何処までも青い空も。
何も、変わらない。
何事も無かったかのように、風は今日も花びらを高い空へと舞い上げる。
「何時か…また逢おうね、 さん」
掌を翳して見上げた空の青さに目を細めながら、そう呟いた。
───空の青さに微笑みを
(こんな天気のいい日に空を見上げるとね……何だか君が、何処かで微笑っているように感じるんだよ…)
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