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昔々、一人の王子が狩りに出た。
その森は、そびえる大木の枝葉の陰に、昼なお暗い。
霧けぶる視界に木々は無数の影となり、閑の世界に生い茂る下草はしっとりと露を纏う。
獲物を追い求め、どんどん森の奥深くに分け入った王子がふと我に返れば、見上げる枝葉の隙間に剣の刃に似た月が覗く夜。
深い深い森の奥。
疲れ果てた王子が辿り着いたのは、こんこんと湧き出る清水を湛える美しい泉。そこには聖なる森を守る乙女が棲む。
いつか見た空の青を纏い、泉の畔で歌う乙女。
危うい銀の月明かりに金の髪をなびかせ、美しい七色の輝く水晶の翅。澄んだ青い瞳をした夢のような乙女は森を守る妖精。
王子は一目で恋に落ち、これを妻にと望んだ。
しかし、乙女は否と答えて歌う。
――私はこの森を守る者。私が失われる事あれば、この森は荒れ果て、やがて貴方の国も滅びるでしょう。
そうして乙女は夜の森に光る道しるべを与え、王子は迷う事無くお城に帰還した。
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