Ⅰ.カンタレラ

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『お兄さまっ』 『……なに?』 よちよち駆け寄るミク 目を細めてよく見ると、髪のリボンがほどけて床まで垂れ下がっている 『危ないよ、』 『う?』 びたんっ こんな表現が一番しっくりくるかも知れない 僕が言いかけたその瞬間に、ミクは自分のリボンを踏み、真正面から深紅のカーペットに倒れこんだ 『大丈夫?』 多分大丈夫ではないだろうな。十中八九泣くぞ、きっと 駆け寄ってミクを抱き起こすと、案の定ミクは大きな瞳に涙を溜めていた …鼻が少し赤くなっている 可愛い 『おに…さま…』 『よしよし』 ミクを抱きすくめながら頭を撫でる すると、僕の首のあたりにミクの涙が数滴落ちた 少しだけ、温かい 『おにい…さまっ、ミク、泣かないもんっ…!』 もう泣いてるよ、なんて無粋なことは、僕は言わない 『うん、うん、そうだね。ミクは偉いな』 『えへへ、』 ミクは着ていた黒いドレスの袖でぐしぐしと少し乱暴に涙を拭い、僕にぎゅっとしがみつく 『あのね、お母さまがね、バラ園の温室にいらっしゃいって!』 『それは、ミクもかい?』 ふるふると首を振り、悲しそうにうつむくミク 『お兄さまだけだっておっしゃってたの』 .
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