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温室のガラス越しに中を覗く
母上は、こんこんと水の湧き出ている小さな石膏の噴水の近くの小さな白い丸テーブルに腰掛け、紅茶を飲んでいた
温室に入る前に、軽く身だしなみを調える
その手が襟まで差し掛かったとき、あることに気付いた
『……あ…』
大きな青い宝石のはめ込まれた蝶のブローチをつけ忘れてしまっていた
何故か昔からそういった装飾品は一つも欠かさず身につけるように言われており、僕もミクも気を付けてはいたのだが。
『仕方ない…か』
これ以上母上を待たせても失礼だと思い、諦めて温室に入った
ガチャっ…
『失礼します』
『あら、はやかったわね。流石、ミクが「すぐにお兄さまに伝える」と言っていただけあるわ』
そう言って柔らかく微笑む母上
その笑顔を見て、僕自身の緊張も少し解れた気がする
『…母上は、僕に何の御用でしょうか』
『まあ、座りなさい。長くなるわ』
『…失礼します』
白い椅子に腰掛け、悟られぬよう母上の顔色を探る
『カイト』
『…はい』
母上はスッ、と目を細め、僕の胸元を見る
つい強ばる僕の身体
母上には申し訳無いが、僕は母上のこの目が苦手だ
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