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おれは舞台裏で昨日徹夜して書き上げたばかりの台本を握る手に力を込めていた。
舞台にはツカサとタツヤが上手と下手にそれぞれ分かれて立ってる。
手が汗でべとべとだ。ばくばくと大きく脈打つ心臓が口から出てきそうな感覚を覚える。
自分の書いた脚本を人が演じる時、クライマックスになるといつもこうだ。
放課後の西日が差す講堂。
スポットライトもなければBGMもない。
役者だって制服のまま。
だけど自分の想像がこの手を離れた場所で、未完成でも形になって、今目の前にあるんだ。
物語は山場。
盛り上がりは最高潮。
これで興奮しないわけないだろう。
タツヤが仰々しく片手を持ち上げ一歩、また一歩とセンターに向かって歩を進め相手役者との距離を詰める。
「この胸に満つる愛は大海のごとく」
続いてツカサも同じようにセンターへ。
「燃え上がる恋は炎のごとし」
舞台中央まで歩み寄ったところで、二人は唐突に正面を向いて言い放つんだ。
「おれたちは永遠の愛を誓います」
そして熱い抱擁を交わす二人。
「おお、フランソワ!」
「ポチョムキン!」
堪えきれずおれは立ち上がった。
感動の名シーンだ。
「ストーップ!」
熱くなったおれの体を一気に冷ましたのは演出家兼監督を務める我等が部長、そして双子の妹マリの声だった。
マリは愛用のハリセンを片手にずかずか舞台に上がると、大きく振りかぶって呆然としているタツヤとツカサに一発ずつみまった。
パーン!って、良い音。
でもハリセンって音のわりに痛くないもんだよな。
「何なのよこれは。あんたたち真面目にやる気あんの?」
「やっぱ情熱が足りなかったのかなあ、マリちゃん」
怒り心頭で怒鳴ったマリはツカサの見当違いの発言に少し毒気を抜かれたみたいだ。ぎっと吊り上げた眉を一瞬歪ませた。
「そうじゃなくて……コウタロウー!」
お呼びがかかってしまった。
舞台袖でのほほんとマリの説教の観客になるつもりだったおれは、息を大きく吐き出して腹を括った。
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