第一楽章

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*** 「愛桜の家久しぶりだなぁ」 「よかったら今日泊まっていってよ。一人だとなんか寂しいし」 「だから私の家においでって言ったのに」 「そこまで紅莉に迷惑かけらんないよ」 「迷惑なんて思ってない!!」 「うん、紅莉はそう言ってくれると思った。でも私、少しでも自力でやってみたいから」 「……愛桜のそういうとこ、私嫌いじゃないけど、たまには頼ってね?」 「ありがと」 愛桜はふわりと笑って、マンションのオートロックをカードキーで解除した。 愛桜の両親は昨年の夏に交通事故で亡くなった。 両親以外に身内がいない愛桜にとってとても辛かったと思う。でも、愛桜は今は綺麗に笑ってる。 私はそれがすごく嬉しくてホッとした。あの頃の愛桜は見ていて痛々しかったから…。 あまり昔とも言えない過去のことをぼんやりと思い出しながらボーっとしたまま、愛桜の家にお邪魔する。
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