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裁判で幸栄を撥ねた男は、ずっと泣きながら謝っていた。
俺に対しても何度も何度も頭を下げて。
だから、なんだ?
この若僧が謝り続ければ、幸栄と子供は帰ってくるのか?
んな訳、ないんだよ。
もう帰ってこないんだよ。
もう2度とあの笑顔は見えねえし、おちゃらけたあの声も聞こえない。
なあ、クソガキ。
幸栄の腹の中にいた子供は女の子だったんだぜ。
幸栄は女の子が欲しいって言ってたから、喜んでたんだよ。
子供と一緒に買い物行きたいなーとか、大きくなったら一緒に料理してみたいとか。
いつか叶えるために腹痛めて、幸栄は頑張ってたんだ。
お前は、その夢を奪った。
でもな、もしかしたらこれが運命だったのかもしれない。
お前が酒を飲む事。幸栄が大きくなった腹を心配して徒歩で産婦人科に向かった事。
全てが、決まってたのかもしれないよな。
だからお前の罪を重くするとか、死刑にしろとか言わない。
お前は生きて、罪を償え。
でも、俺は疲れた。
もういいよな。
幸栄と娘がいない世界に興味なんかねえ。
疲れたんだよ。生きる事に。
幸栄、お前を1人にはしない。すぐにそっち行くからな。
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