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茂は倒れたタンスと壁の下にできた小さな空間にいたためにほぼ無傷だった。しかしその少し先には頭から血を流して倒れている父親の姿があった。暗闇であまりよくは見えなかったが。
茂は声を震わせながら喋り始めた…。
「俺さ、地震がおきた時親父と話をしてたんだ。もう高校生なんだからどうのこうのって話を聞かされててさ。そしたらデカい地震がきて、食器が入ってる棚が倒れて来たんだ。」
茂は俯いた。
「俺…何が起きたか一瞬わかんなくて…自分の方に倒れてくる棚を眺めてた。そしたら親父が、危ないって俺を突き飛ばしたんだ。親父はその棚に当たって…。」
もういい。と健は茂を制した。健だって自分の父親の死を受け入れたくなかった。それ以上聞きたくなかった。
「母さんは…?」
「あ!そういえばお袋は今朝から旅行行ってんじゃなかった!?」
そういえばそうだった。近所の主婦仲間と一泊二日で県外に旅行に行っていることを健も茂も、この事態に気が動転しているためにすっかり忘れていたのだ。
「とりあえず外に出てみようか…。」
今は亡き父親に最後の別れを告げ、健と茂は手探りで家の出口に向かった。
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