睦月 ~期待~

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まず始めにしなくてはいけないこと。それは振り袖選びだった。 我が家は誰が見ても中流家庭だから、振り袖を購入するほどお財布に余裕はない。 多くの新成人がそうするように、振り袖をレンタルする事にした。 モタモタしてたらイモ臭い振り袖しか残らない。バーゲンのワゴンセールに群がるおばちゃんの如く鼻息を荒くし、私はお店へと向かった。 そしたら凄いのね。成人式は半年後だっていうのに、なかなかの盛況っぷり。 この娘達もみんな、成人式ロマンスを望んでるんだ。そんな同志の感覚を抱きつつも、良い振り袖を取られまいと私の目はギラギラ。 化粧の匂いがどぎつい店員のおばちゃまが、愛想笑い皺を顔いっぱいに広げて話掛けてくる。 「どのような振り袖をお探しです…」 「とにかく人とは一味違うものを!」 成人式会場では、振り袖の新成人が芋の子を洗うようにひしめき合う。 その中でオンリーワンになるには、珍しい振り袖が必須条件になってくる。 するとそのケバい店員さんは、奥から幾つかの振り袖を出してくれた。 でも呆れたわ。だって持ってきた振り袖は、ショッキングピンクを基調としたバラ柄のものと、背中一杯に鶴が描かれたもの、そしてエミリオ・プッチの紛いもののようなサイケデリックなもの。 「かなり個性的となってます」 ニコニコしながら言うケバい店員のおばちゃま。 確かに目立つけど、私は仮装大賞をしにいく訳じゃないのだ。なんていうセンスをしてるんだ、デザイナーもこのケバいおばちゃんも。 心の中でケババァと名付けてやったそいつに、注文し直す。 「もう少し、品はあるけど一味違うのはありますか?」 「そればっかりは人それぞれの趣味ですから…」 おい、ケババァ。それを見繕うのがあんたさんのお仕事ではないのか。後ケババァよ、ファンデーションが浮いてきて粉ふき芋の様になってるぞ。 頼れぬケババァは置いておき、膨大な振り袖の中から自分でお気に入りを探す事にした。 しかしまぁ、大抵の振り袖がありきたりで安っぽい。それを「安くて可愛い~!」とはしゃぎながら、好んで選んでる周りに嫌気がさしてしまった。 この店には期待出来ないかもしれない。そう諦め掛けた時、一つの振り袖が私の目を奪った。
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