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色は赤。でもありきたりな赤ではなく、少しトーンを抑えた大人の赤。柄は桔梗で、黒一色で主張しすぎない程度に描かれている。差し色でうまい具合に金色が使われていて、華やかさも忘れてない。
こんな素敵なものを何故目立たないところに置いていたのだろう。まぁいい、お陰で私が見つける事が出来たんだし。
直感は信じるべきもので、九十八パーセントはこれにすると決めていたが、一応ケババァに相談する事にした。
「この振り袖良いですね。」
「え?そちらは流行りのものではございませんが…」
流行りのものっていうのは、あの大量生産を思わせる、無駄に華やかな振り袖達のことだろう。
「これ、気に入りました。でも沢山貸し出されてる柄ですか?」
「いえ、こちらは希少でして、同じ柄のものは日本に五着あるかないか…」
ビンゴ。それならオンリーワンになれる可能性大だ。
私は早る気持ちを抑え、ケババァに最終確認をした。
「こちらを借りたいです。いいですか?」
「勿論です。が、そちらは先ほど申した通り希少でして、少しお値段がお高くなっていますが宜しいですか?」
金に糸目はつけない…とまでは言わないが、別に多少高くなるくらい、将来の彼氏の為ならお構いなしだ。
しかし、軽く確認して会計をしようと値札に目をやったあたしは、固まった。
…予算よりゼロが一つ多いんですけど。
ちょっとじゃなくてだいぶ良い値段してますよ、これ。
何ていうか、擬音でいうなら「どひゃー」といった感じだ。
考え直した方がいいか。しかしケババァはもう見積もり書を持ってきている。
虚勢だけはいっちょ前に張れる私は、冷や汗とは逆に涼しい物言いで、お願いしますと言ってしまった。
大丈夫。この振り袖ならイケメンな上に金持ちの彼氏をゲット出来るだろう。先行投資ってやつだ。
その為だったら、バイトを二つ掛け持って週七でシフトを入れるのだって辛くないや。
そう自分に言い聞かせ、ケババァに愛想笑いを返してみせたのだった。
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