変わらぬ世界

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普通の学校は屋上が解放されていないところが大半だと思う。 だがこの学校は授業中を除き、屋上を利用することができる。 青春っぽいことをするにはもってこいだ。 内緒話をするのにもね。 カツ、カツと音を鳴らして屋上へ続く階段を駆け上がる。 ヒロは今日掃除当番だ。 彼は急いで掃除を終わらせて十分でやってくる。 この夏の暑い日差しに私は勝てるだろうか。 今回は、救うことができるだろうか……――。 壁に描かれた『正』の文字を見つめる。 何百個も描かれた『正』という文字はこの学校での七不思議になりつつある。 この学校の規則はほかの高校にくらべ、かなり厳しい。 一部の噂では規則を破った生徒に先生が掘らせているという噂もある。 みんな知らない。この壁の秘密。 ぎぃい、と古びたドアを開ける音がした。 「ワカ、今日掃除なかったのか?」 「うん。んで、何の用?」 その言葉にうーんとか、あーとか煮え切らない返事をするヒロ。 なんでだろう、いつもこの場面がくるとデシャヴに陥る。 今まで何回も繰り返してきた場面だから見覚えがあるのなんてわかってる。 でも、そうじゃない。一回目のときから感じていた。 「なんだよ。はっきり言えっつーの」 「んじゃ言うけど。おれ若奈のこと好きなんだよね」 あだ名で呼ばずに、名前で呼んだのは彼なりの勇気。 ぎゅう、と胸が締め付けられる。 ――またダメだった。 「でも――」 「わかってるよ。お前の一番は謙一だもんな」 「でも、ヒロのことも大切だよ」 「ハハッ、そりゃありがたい」 ヒロは乾いた笑いをあげ、その場に座り込む。 空は憎らしいぐらい晴れていて、空さん空さん、空気読んでください。といいたくなった。 「行けよ、謙一が待ってんだろ?」 「うん……ごめんね」 ヒロを振り返らずに走りだす。 このままじゃ、謙一まで。 外靴に履き替えることもせず、そのまま校門に向かう。
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