プロローグ

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 ざあざあと雨の降りしきる中、俺は傘を差して交差点に立っていた。 「よう……久しぶり、だな」  俺は目の前に置かれた花束に向かって、遠くへ行ってしまった彼女に向けて語り掛けた。 「やっぱり今年も雨だな………」  俺の誕生日はいつもこうだ。  降り注ぐ雨の真ん中で、過去に失ってしまった大切なものを想い起こす。 「………」  静かに空を仰ぎ見る。  ほろ暗い雲から零れる雨は、今も途切れる事無く降り続いていた。 ―――雨は……止まないな  逃れられる訳なんて無い。  俺は自嘲を含んだ笑みを浮かべて軽く目を閉じた。冷たい雨音を聴きながら、俺はいつものように五年前の今日を回想した。 ―――…
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