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―――水曜日
「あちゃー、やっぱ降ってきたかぁ……」
桜庭真也は教室に立ち尽くしていた。
時刻は午後4時、すでに教室には彼以外の人影はない。
いつもは声を張り上げて練習している野球部も、雨のせいで部室に引っ込んでいる。
朝の天気予報ではお天気お姉さんが、満面の営業スマイルで「ところにより一時にわか雨があります」って言ってたのに……。
これがにわかなら、フツーの雨はきっと洪水警報が即発令されるレベルなのだろう。
(傘無いしなぁ……止むの待つかな。一応下足室まで行ってみるか)
多少壊れていても使える傘が棄ててあるかもしれないからだ。
「?」
下足室に着くと、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「あのリボンとツインテールは……麻衣……ちゃん?」
真也の呼びかけに、彼女の肩がピクッと反応した。
ゆっくりと振り返ったのは予想通りの人物、白いブラウスにワイン色のチェックのスカート……つまり、制服を着た笹岡麻衣だった。
しかし、今は「私は不機嫌です」と言わんばかりの表情を浮かべている。
元々ツリ目気味な瞳は完全にツリ目になっているし、ツインテールは彼女の機嫌を表すようにピンッと尖っている。
「何……してるの?」
と、おずおずと聞いてみる。
「待ってたの」
と、トゲトゲと言い返された。
「……誰を?」
「アンタを」
「何で?」
「ん」
麻衣がパッと左手を突き出した。
その手は何かを要求するようにチョイチョイっと動いている。
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