冬と受験と恋心

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  見上げると、そこには黒いジャンパーを羽織った男の人が自転車を押して立っていた。 涙でよく見えなかったが、真帆には誰だかすぐにわかった。   「葛城、恭介さん……」   「ん? どっかで会ったか?」   恭介が怪訝な顔をする。 真帆はフルフルと首を振った。   「まあいいや。で、どうかしたのか?」   「あ、その……じ…じゅけっ」   また涙が溢れてきて上手く言葉が繋がらない。 真帆は必死に受験票が流れていった先を指差す。 それを目で追った恭介は目を細めてジッと見つめた。   「……わかった。ちょっとコレ見ててくれ」    「ふぁ…?」    自転車を停めて素早くジャンパーとセーターを脱いでTシャツになった恭介は、真帆にそれらを預けて走り出した。 そして20mほど走ったあと、躊躇なく川に飛び込んだ。 真帆は目を丸くした。 もう3月だといっても朝は寒い。 水は氷のように冷たいはずなのに、恭介はバシャバシャと泳いでいった。 真帆が呆然としているうちに、びしょ濡れになった恭介が右手に受験票を持ってあがってきた。 真帆に受験票を差し出す手は小刻みに震えていた。
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