第一話「日常」

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今日も一日が過ぎる。 いつもと何も変わらない風景。時間の流れが永遠に感じたあの頃。 外を見上げると、もう春の匂いがしていた。僕は窓際の席で空を眺めるのが好きだった。 もちろん授業中にそれをしていたわけだから、英単語はほとんど頭に入ってこない。今は学年主任の水川先生の授業だから、気を抜けないはずなのに。 僕は春の息吹きに身を委ね、桜の花を心待ちにしていた。 「おい悟、この曲聴いてみろよ。」 淳から渡されたイヤホンを耳に当てると、化粧品かなんかのCM曲が 流れていた。 「な?いい曲だろう?」 「確かに。耳に残るメロディーだね」 調子良さげに、サビのフレーズを歌う淳。 淳とは2年に上がってから知り合い、一番仲の良い友達だった。 こうやって、自分の好きな曲をお互いに聴かせ合って、毎日を楽しく過ごしていたんだ。 でも年が明けて、冬が春に近づくにつれて僕らを取り巻く環境も変わってきた。 周りが受験一色になり、僕らも将来について考えなくちゃいけない時期になったんだ。 今まで同じペースで歩いていたと思ったのに、これからはみんなバラバラになる。当たり前のことだけど、どこか寂しかった。 僕らはバラバラになる前に、何か1つ思い出を作りたかった。お互いの青春時代を生きた証として。
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