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「はこぶね」
君は躊躇い無く僕を誘った。震える声で、選別の罪で潰れながら。蛙が君に託した理由が、痛いぐらいわかるんだ。君はとっても…とっても…
君が連れて行ける11人の、僕は何人目なんだい?そんな意地悪な応えを僕が数秒前から用意してると知ったら、君は今までを後悔するかな。こんな世界に…いや、ヒトの心に絶望できて、これからずっと楽なのかもね。
だけど僕はいつも通り、君より僕を優先する。君が楽な未来より、僕が楽な未来を紡ぐ。「紡いでしまう」なんて言わないよ。そのあとの罪の意識まで、中毒のように選んできたんだ。君はやっぱり、最後まで僕を知らないようだね。まぁ、最期を先に迎えるのは僕なんだけども。
動揺しない僕の肩に君が触れた。どうして僕は表情を変えないんだろうね。いつも通りの薄汚い笑いを張り付けて君の前にいるよ。そんなに聞かれたって、僕にも分からないんだ。死にたかったわけじゃない。ただ、僕も君も少し黙ってくれ。君の選別を断われる、一番良い方法を見付けだすから…
黙りこくった僕に飽きて、君が席を立つのには思いの外時間がかかった。ねぇ、僕はやっぱり、君の何人目だったの?ここで涙が出るような人間だったら、僕は大丈夫だったのに。
ひとりになった空間に、いつも明かりはいらなかった。どこかで戴いた雑音で寂しくなる事はあったけれど。それでも僕に光は似合わなかった。もちろん闇も似合わなかった。窓のすぐ近くに街灯があるこの部屋は僕自身であり、完全な光も闇も作り出せなかった。君と先人の文化が引き出す心と、蓄積されねじまがった僕の文化、心の渦。行ったり来たりする昨日と今日。本日の夜の次に来る先日の朝。道端の鍵に送る視線と君に話す小さな嘘達。僕は完全ではない。君も完全ではない。だけど完全でない僕にとって完全でないのは僕だけなのだ。
僕は僕でしかないよ。
その事の証明が、君についていかないこと。
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