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「ううん、カエルだけ。嘘だったら良いのにって思ったのに、朝起きたらちゃんと目は腫れてるし、お前がその話知ってるなら、ほんとうなんだ…」
昨日のように一方的に君に詰め寄られるのが怖くて適当な言葉をかけたら、君の唇はシャワーのように滑りだした。
「夢だ夢だって思っても、あの時間にあのタイミングで夢を見るなんてありえないんだ。頭がきっとおかしくなったんだよ。そんな事起こるわけないもの。大体カエルってなんだよ?なんでカエルが喋るんだよ?百歩譲って喋っても良いよ?でもなんで昨日だったんだよ…」
もっと未来だったら良かったのだろうか。でも、君がそう思うとは考えにくい。未来なら未来で、また僕達と違う人が恐怖の中で死を迎え、掃除されるという事だ。もしかしたら、過去にそれが起これば良かったと?そう考えてるなら君は僕が思った以上に混乱してるという事だが、きっとそれも違うだろう。
「僕は…行かない。行かないから。」
君の呼吸の隙間に僕は勇気を押し込んだつもりだ。タイムリミットは決まっている。その中で選別しなければならない君が取り乱していては救える命も全滅だ。僕の事なんて早く忘れて、11人を無事に選び終えてほしい…
「いま、なんて?」
ひどく喉に突き刺さる声だった。
「聞こえただろ?おまえ、妹もつれてくならハコブネに乗るまで話さない方が良いんじゃないか?ふたりで旅行に行くとかいう事にして」
君は帽子の上から頭を掻きむしり、小さく呻いていた。僕が行かないと言った途端に止まった足は、今度は崩れ落ちそうだった。その日常ではなさそうな光景に道行く人々が好奇と不安と期待の目を向けてくる。僕はとりあえず君の肩を抱いて学校へ向かおうとした。しかし君の体は僕の力に寄り添い、危うくもつれて倒れ込みそうになった。君が異性なら僕は通報されてしまいそうな格好で僕達は暫く立っていた。
「その子、具合悪いの?」
黒い服を着て真珠のアクセサリーを付けた中年女性が声をかけてきた。僕の知ってる人ではないし、君の知ってる人でもなかった。つまり、この人も死ぬのだ。
「あ、大丈夫です…」
僕は咄嗟に返事をしたが、君は突然ひくひくと泣きだしてしまった。
「ああ…ねぇ?どっか痛いの?タクシー呼ぼうか、病院と家どっちに送ればいいのかしら…ねぇ?僕?何?」
その女性には聞こえなかったようだが、君はかたい声で優しくしないでくださいと言った。
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