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小夜子は一度仕事に戻ると、今度は商品を少しずつ並べ始めていった。が、その時、うっかり誰かにぶつかってしまい、パンの袋がどさっとなだれの様に落ちてしまった。小夜子の周りが散らかり放題になる。
「何をやっているんだ君は!」
ぶつかってしまった男が怒鳴った。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
小夜子がパンを拾いながら謝る。
「まったくもう」
男はぶつぶつ言いながら、レジへ歩いていった。そこへ、
「小夜子、大丈夫?少し休んでもいいわよ」
とこのコンビニの近所に住むバイト仲間の夏美が、小夜子に声をかけてきた。
「ありがとう」
小夜子は笑顔で裏の事務所に入っていった。と、その時、小夜子の携帯電話のバイブレータが反応した。
「もしもし」
小夜子が呼びかけると、
「お父さんだけど、今問い合わせしたが、夢ヶ丘署にもお父さんのところにも、そういう届けの情報は入っていなかったよ」
と誠が言ってきた。
「やっぱりね」
「哲ちゃんと竜治の動き次第だが、今のままではお父さんの所じゃダメかもしれない。物的証拠がなければ、捕まえることが出来ないからなぁ」
「そうかぁ、告発状だけじゃ不十分かぁ。でも、皆捜査の方は始めたでしょう?」
「ああ」
「となると、相原の住所は、あすかちゃんの家に名簿があるわけだから、それでわかるよね。告発状にも書いてあるはずだし。でもどんな方法で体罰を加えたかわかる証拠がお医者さんからの診断書しかないってわけね」
「その通りだ。でもそこまで体罰事件をひた隠しにするなんて、絶対何か他に理由がありそうな気がするんだが…。他の先生から通報があったっていいはずなのにそれもないし、黙っていると言うのが何か腑に落ちないんだよ」
誠はいかにも解せない感じで再びぼやいた。
「調べてみる必要があるわね。私たちのほうでも」
「哲ちゃんがうまくやるだろうから、大丈夫だとは思うが」
誠は言った。そして、
「あ、今日は遅くなるから先に寝てなさい」
と続けた。
「わかったわ、気をつけてね」
小夜子が言うと、
「じゃあな」
と誠は電話を切った。
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