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九_2
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個人タクシーのラジオは、FM放送のバラエティー・トーク番組で、聞き覚えのあるメロディーを流していた。曲は 『Utada』の『メリークリスマス・ミスター・ローレンス- FYI 』渋滞に巻き込まれたタクシーの中で聴く音楽としては、悪くはなかった。
この曲の冒頭のメロディーだけを聴いて、宇多田ヒカルを思う人は多くないだろう。しかし原曲のメロディー自体を知らないという人は、更に多くは無いハズだ。それが何という曲か知らないにしても。
もちろん九も知っていた。首を右に傾けて、閉じたままの窓越しに空を見ながら、彼女はそれを聴いていた。もう夜も遅いのに空は、まだ紺色には沈みきっていない。 6月は一年で一番夜が短いのだという。そのせいなのだろうか?
やけに目に付く赤みがかった大きな星がある。ずいぶんと明るい。あれは火星だろうか。そう九は思った。彼女はそれが木星であることを知らなかった。
それにしても、まさか関越道の下り線が、所沢料金所を過ぎた辺りで渋滞するとは考えもつかなかった。今は 6月。スノーボードには早すぎる。車は動かない。彼女は深く溜め息をついた。
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