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そういえばラジオを聴いたのは久しぶりだ。それにタクシーというのはラジオを流しているものだっただろうか? 滅多に乗らない彼女にはよく分からなかった。
彼女は今更ながら気がついた。古ぼけた外観だとは感じたが、走っていてもエンジンの音がしないし、外の雑音もほとんど聞こえない。車内の調度はタクシーというにはずいぶんな上品さで、クラシックカーにありそうな不思議な模様をした木目板が帯のように肩口を取り巻いている。シートもホテルオークラのラウンジソファーのように硬すぎず沈み過ぎない座り心地で、かなりの高級車らしかった。音楽の聞こえ方もボリュームは控えめなのにサラウンドみたいに3D的だ。
九は、コレは本当にタクシーだろうか? と思いかけて、アイボリーの車体にボンネットの左側からテールに向かって引かれた青いラインを見やり、屋根の上にあった黄色いデンデンムシの行灯を思い出した。窓にも¥710 のステッカーがちゃんと貼ってある。
「あの、いつもラジオかけてるんですか?」
彼女は運転手に声をかけた。そんな性格ではないのに、何故そうしたのかは自分でも分からなかった。
「あ、スイマセン、うるさかったですか?」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・・ すごく静かな車だなって」
運転手はホッとしたように顔をほころばせて答える。
「ああ、ええ、本来は VIPカーですからね。古いですけど」
しわがれ声だが人のいい印象がにじんでいる。
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