九_2

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「外車なんですか?」 「いえ、TOYOTA センチュリー V40型と言います。古い車です」 「トヨタ・センチュリー」 「そう、21世紀の、世紀って意味のです。コイツとは20世紀から走ってます。もう25年くらい」 「そんなに?」 「ええ、たぶん、お客さんより年上かも知れませんよ。ハハハ」 「へえ、スゴイんですね」  彼女は素直に驚いていた。車と言うものがそんなに長い間走り続けられるとは思ってもみなかったのだ。  車内に親和的な空気が生まれた。 「ところで・・・・・・」と彼女は言いかけてためらった。 (ワタシはどこからこの車に乗りましたっけ?)  とは、ちょっと訊きにくいことだった。運転手は怪訝(けげん)には思うだろうし、ラジオは「エフ・ワイ・アイ」とコーラスを繰り返しながら曲が終わり、ちょど静寂の間が空いたのも妙にタイミングが悪かった。  パーソナリティーがしゃべり始め、それをきっかけにせっかくの会話もフェードアウトしてしまった。
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