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彼女はその映画を一度だけ見た覚えがあった。ビートたけし、と坂本龍一とデヴィッド・ボウイがでていた。公開は1980年代の前半。その何時だかまでは知らない。
ただ。1984年の夏。
「戦メリが、今年放送予定です。吹き替えはどうなるんでしょうね」
と坂本龍一が、自分のラジオ番組で話していたのを、何故だか記憶している。映画館で見てはいないから、そのテレビ放映を見たのだろうと思う。たぶん、日曜洋画劇場とか、金曜ロードショーとか、そういう番組だ。
(ウチは、何でそんな事を知っているんだろう?)
彼女は考えた。自分は2009年の今年、22才になったばかりで1984年にはまだ生まれていない。母親の胎内にも存在していなかったハズだ。恐らく父親の精子の中にも自分の片鱗さえ見つけられないだろう。在るとすれば、可能性としての遺伝子情報くらいのものだ。そう思った。その時代に父と母が出逢っていたかどうかも、自分は知らないのだ。
だいたい、坂本龍一の名前くらいは知っているが、白髪の長髪で小難しいピアノを弾くオジサン、くらいの感覚と知識しかない。映画を見たのは、きっとテレビなんだろう。けれどラジオは聞けるはずがない。何の勘違いなのだろう?
彼女の思索をさえぎったのは、先ほどとは打って変わったラジオの声だった。
「さて、本日何度もお伝えして来ましたが、日本時間の今日。6月26日金曜日、午前6時26分。アメリカの歌手、King OfPop.ことマイケル・ジャクソンさんの死亡が確認され、そろそろ18時間が経とうとしています。ワタクシも、まだ信じられない気持ちでいっぱいです。本当にもう、彼には会うことは出来ないんですね。残念です」
あのパーソナリティーが、低く、慎ましく告げた。
「お届けする曲は1995年。ビルボード100史上初の、初登場1位を獲得し、ギネス・ブックにも認定されたベストヒット。たくさんのリクエストが届いております。“マイケルに贈る歌”としてこれ以上の曲はないでしょう。Mr. Michael Jackson 永遠に」
彼は一息ついた後。曲名を、一語一語区切って言った。ゆっくりと。
「 You Are Not Alone 」
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