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藍毅_2
◆◆◆
藍毅はビクッと全身が大きく収縮した。急激な落下感。
100 階建のビルの屋上で寝そべって、気持ち好く陽向ぼっこしていたら、いきなりビルが消えて、真っ逆様に落とされたような感覚に襲われた。
意識が現実を認識するより早く、何かが体の上に覆いかぶさって来た。彼は更に驚き、反射的にそれを腕で払い除ける。
半瞬の後、理解が追いついた。自分はベッドの上に横たわっており、突然バネ仕掛けのように弾けた。そして跳ね上げられた布団が落ちて来たのだった。
手のひらと腋の下がじっとりと濡れている。肩と首筋が強張っている。Tシャツが背中にべったり貼り付いている。
また、だ。
もう何ヶ月も前から続いている悪夢だった。そう。ヤツらを見つけてしまってからずっと。しかし実際に事を起こしてから、刻一刻と、時間が経てば経つほどに、現実感は増して、生々しい感触が手の中に蘇る。刃が薄紙のように皮膚を裂き、肉を斬り、血管を破る。そのわずかだが確実に伝わる手応えは、現在この手に存在している。
自分は人を殺した。彼は再確認する。それが紛れもなく事実であること自体もだ。
後悔はない。25年も憎み続けたヤツらに、罪を贖わせる。そのために生きて、そのためにだけに、好きでもない技を磨いてきたのだ。良心の呵責などないはずだった。
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