九_1

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 とても良い結婚式だった。渋谷のゲストハウスを貸し切りでウエディングなんてクール。  ライスシャワーの代わりに、ライトアップされ虹色に舞う、シャボン玉シャワーに包まれて歩く二人。幻想的でハートフルな演出は、列席者をも十二分にハッピーにさせてくれた。中学時代からの付き合いで、いま新婦になったばかりの友人に、九は声をかけた。 「おめでとう! 綺麗よ、スッゴく」 「ありがとう、キュウ。ブーケはアンタに投げるからねッ」  新婦は本当に嬉しそうに微笑み、そして宣言した。  九は何と答えようかと、つい考えてしまったがすぐに止めて、素直に「よろしく」と言っておいた。  九というのは彼女の本名だ。正しく読める人には22年間で一人も逢ったことがない。皆「キュウさんですか?」と訊く。たまに「イチジクさん?」と言う博識な人もいたが、その都度彼女は「サザラシです。すいません」と訂正し、相手を苦笑させるハメになった。
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