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九_3
◆◆◆
「お客さん、三芳パーキングの出口を降りるんでしたよね?」
すっかり動かなくなった渋滞の中で、運転手は九に言った。
シートと窓にもたれ、ぼんやりと『考え事』をして、同じようにすっかり動かなくなっていた彼女は、ばね仕掛けのようにその声に身を起こした。
「え? あ、はい、そうです。あそこに出口できたんですよね? 家はそこからスグなんです」
「ええ、できたばっかりです。昔はあの辺行くには、所沢インターで降りて裏道に入らなくちゃならなかったんですけどね。今は便利になりました。ただ」
運転手はそこで言葉を切った。
「ただ?」
「それだけに、こんな状態になると、短い区間なだけに、雪隠詰めみたいになってしまうんです」
「セッチンヅメ?」
「ああ、スイマセン。分かりませんよね、古い言葉なんで。つまり、狭いトイレに押込められて、鍵を掛けられたみたいだってことです。閉じ込められて出口がない。天井を別にすればですが。しかもこんな真夜中にです」
「閉じ込められた?」
「たぶん、これは事故渋滞です。高速道路情報のラジオサービスエリアにはまだ入っていないので、確実な事は分かりませんが、まず間違いなく三芳と所沢間で事故です」
「いつまでかかるか分からないって事ですか?」
「ええ。こういうのって意外と時間がかかるもんなんです。パトカーか救急車が来るにしても、ここでは後ろからしか来られません。もし路肩を走っていたバカな車がいたら、そこで盲腸です。行き止まり。パトカーさえどこにも行けない。トイレにだって行けない」
「ああ」九は顎をあげた。ちょうど肯く動作を逆にしたように。
さっきからセッチンヅメだの盲腸だの、なんでそんな変な事ばかり言うのかと不思議に思っていた九は、ようやく合点が行った。運転手の言わんとすることが理解できたのだ。彼は彼なりに気を使って言葉を選び、遠まわしに打診していたのだった。 同じサービス業でも、自分の職種とはまた気遣いが違うものだなと、九は感心しながら応えた。
「ワタシなら大丈夫です」
「ああ、それは良かった」
ホッとしたように運転手は言った。
「いやぁ。実は提案をひとつしようと思っていたんですよ。ちょっとした裏技をね」
「裏技?」
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