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もっともその二人は、とうにギャングなどという年頃ではなかったが。
標的まであと一歩に近づいた藍毅は、東急ハンズの白いセロハン袋から、ガサガサと長めの靴べらを取り出す。
真鍮製でクラッシックなデザインの柄と、その先にユリの花があしらってあり、長さも50センチ弱はある。ガーデニングが趣味の家の玄関にあるような靴べらだ。足音は消しながら、ガサつかせたのはワザとである。突然後ろで不快な音をさせ標的の心情を負の方向に傾ける。それが、近づくきっかけになるのだ。
標的たちを三歩追い抜くと、彼は立ち止まり膝をまげ、靴べらを右足の踵に差した。後ろから二人連れの一人が舌打ちをした。邪魔だ。という意味だ。先ほどの心理効果があった。あと一秒あればそう怒声が飛んできただろう。しかし、その時間を藍毅は与えなかった。
右手をスイと翻し靴べらを踵から抜くと、左右のつま先を軸に右回転で後ろを向き直った。
その時にはもう、靴べらの先端は頭上にあり、彼は虫を追い払うような仕草で右から斜め下に腕を振った。へらの部分は男の首筋を捉えた。
瞬間、藍毅の鼻からは多量の呼気が放たれた。
「フンッ」
音に訳せばそうなる。
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