【1】はじまり

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春の朝。 目覚めるといつも、一番に空を見上げました。 そこから見る空を、桜の花びらが美しく彩っていました。 小さな神社の軒下に、私の家はあって、二人・・・いえ、2匹の妹と暮らしてたのです。 家といっても、ミカンの絵がついた、小さなものです。 あの頃の私は、まだ生まれて半年くらいだったと思います。 私たちが生きていられたのは、ある少女のおかげでした。 その少女が、私が最初に出逢った「イイ人」です。 少女は毎朝、学校と言うところへ向かう途中、ここに寄って、ミルクや食べ物を届けてくれたのです。 少女はいつも一人でした。 時々は、帰りに食べかけのパンをくれることもありました。 「リンリン♪」 背中の四角い箱に、ぶら下がっている、鈴の音が近づいてくると、私たちは、家から身を乗り出して待ち構えました。 『いっぱい食べて、大きく、強くなるんだよ~。』 そう言いながら、食べている私たちを、優しく微笑んで見ていました。 私は、この少女が大好きでした。 毎日、あの鈴の音を待ちわびていたのです。 ある日の夕方、女の子の様子が少し変でした。 背中にあった、四角い箱は無くなっており、可愛い洋服は泥だらけだったのです。 (悲しそう・・・。何があったんだろう。) 私の不思議そうな顔を見てか、女の子はすぐにいつもの笑顔になって、言いました。 『だいじょうぶだよ。ネコちゃん。ちょっと転んじゃったんだ…。ランドセルは無くなっちゃったけど、これはちゃんと持ってるからね。』 広げた小さな掌には、あの鈴がありました。 輪っかは、ちぎれて、少し形も潰れていました。 『これね、お父さんからもらったんだよ。私これが大好き。ネコちゃんたちも好きなんだよね。』 その音がすると、私たちが飛んでくることを知っていました。 『でもね・・・。鳴らなくなっちゃった・・・。ごめんね・・・。』 つぶれたせいで、音がしなくなったのでした。 「ギリッ。」 かすかに、奥歯を噛み締める音が聞こえました。 (どうしたんだろう…。) 私はまだ幼く、鈴を見つめる少女の悲しみを、理解することはできなかったのです。 少しして少女は、いつもの様に私のノドを撫でてくれました。 実は、私のノドにはピンクのアザがあり、そこだけハゲていました。 その「アザ」が、女の子のお気に入りだったのです。
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