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【9】ネコの涙
『あれ?ここは・・・どこ?私は・・・』
『瞳ちゃん!!お父さん!気がついたよ!』
『・・・和樹君?なんで・・・』
『・・・瞳ちゃん、ごめんね。もっと早く助けてあげれば、こんなことには・・・。』
『私は和樹の父親だ。君に近づいちゃいけないと言ったのはこの私なんだ。自分の立場が大事なばかりに・・・。すまなかった。許してくれ。』
『瞳ちゃん。悪いのは僕だよ。僕さえしっかりしていれば、君を独りぼっちにはさせなかったのに・・・。ごめんね。』
『ううん・・・。和樹君たちは、ちっとも悪くはないよ。みんな、それが普通なんだよ。誰も悪くはないの。私がついてないだけ。私が弱いだけ・・・。誰も悪くないの・・・』
瞳の頬を、優しい涙が流れていた。
小さな少女が、今まで抱えてきた辛さや寂しさ、悲しさ悔しさ、その全てを物語る涙に、和樹たちは何も言えなかった。
『でも・・・でもどうして、和樹君たちが私を?』
『あ、ああ・・・。君のネコ・・・「カズ」がね、知らせに来たんだよ。』
『えっ!!カズが?』
『そうなんだ。ほらこれ。』
「リン♪」
『それは、カズの・・・』
『苦しそうだったから、私が外してあげんたんだが・・・。』
『・・・?苦しそうって?』
『実は、僕の家の前で、車にはねられたんだ。』
『そんな・・・。今はどこに?まさか・・・』
『それがね、私たちが君の家に行ってる間に、閉め忘れていたドアから、出て行ってしまったんだよ。』
『カズ・・・私のために・・・』
首輪を握りしめてうつむく瞳。
『カズを・・・カズを捜さなきゃ。助けてあげなきゃ!』
ベッドから起き上がろうとする彼女を、和樹が止める。
『お願い、行かせて。きっと今頃独りぼっちで泣いてる・・・。』
『お父さん!お願い、手伝って!僕もあのネコを放ってはおけないよ。』
『しかし・・・』
『あのネコは命がけで、瞳ちゃんを助けようとしたんだよ!今度は、僕たちが助けてやらなきゃ!!』
医者の立場として、救急患者を連れ出すわけにはいかなかった。
が、少し考えていた彼は、白衣を脱ぎ捨てた。
『・・・よし、分かった。行こう。』
『先生!だめです。そんなことをしたら・・・』
看護師が止める。
『いいんだ、私は医者でありながら、この子の心を、こんなにも傷つけてしまった。助けが必要なこの子に目を背け、知らぬ顔をしてしまったんだ。最低の医者だよ。もう二度と、自分の立場と人の心を、秤にかけたりはしない!どいてくれ。』
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