【9】ネコの涙

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私は、何度も倒れながらも、あの神社までたどり着きました。 軒下には、もうミカンの絵がついた「家」は、ありませんでした。 それでも、私にとっては大切な場所であり、何だかホッとしたのです。 それが限界の様で、私はその場へ倒れ、もう起き上がれませんでした。 (ただいま・・・。帰ってきたよ。) 妹たちの顔が、思い浮かびました。 ケンジ、ミキ、ヒトミ、カズキ・・・。 (みんなありがとう。) その時、ヒトミの声が聞こえた様な気がして、目を開けました。 『やっぱり、ここだった。』 もう会えないと思っていたヒトミが、目の前にいた。 『カズのばか!なんで、教えてくれなかったの。カズは、あの時のネコちゃんなのね。』 (教えたくても・・・。でも良かった、助かったんだね。良かった・・・) 意識が遠くなり、目を閉じようとした私を、ヒトミが抱き上げました。 『だめ!死んじゃだめ。私なんかのために、死んじゃだめ!!お願い、目を開けて!』 私は最後の力を振り絞って、目を開けました。 (ヒトミ・・・。もう君は、一人じゃないよ。これからも頑張って、生きて。) 『カズ・・・お願い、死なないで・・・』 もう目は開けていられませんでした。 『瞳ちゃん。もう…逝かせてあげよう。これからは、カズに負けないくらい、立派に、一緒に生きて行こう。』 カズキの言葉に、ヒトミがうなづいたのが分かりました。 『ネコちゃん。私を助けてくれてありがとう。君は、私をほんとうに救ってくれたんだよ。君に逢えて良かった。大好きだよ・・・。』 ヒトミの涙が、温かく感じられました。 『瞳ちゃん。このネコは、僕たちの天使だね。』 『うん・・・。そうね。ほんとに。』 ヒトミの唇が、鼻に触れたのを感じました。 『ゆっくりおやすみ。さようなら・・・。私の天使ちゃん。』 こうして、三つ目の名前は、「テンシ」になったのです。 妹達といた大切な場所で、愛した人の腕の中で、最期を迎えられた私は、とても幸せなネコです。 (ありがとう、みんな。ありがとう、ヒトミ・・・) 私のヒゲを、最後の涙が落ちていきました。 『あっ、瞳ちゃん!!カズが…泣いてる。』 『そうよ。ネコだってね、私たちと同じ様に、涙くらい流すんだから・・・。そうよね、カズ。』 (おかえりお兄ちゃん。) (レイ。) (レイちゃん。) リコとケンジ、そしてミキの声が聞こえてきました…。 ~ネコの涙~ 完
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