【3】天敵現る

2/3
前へ
/26ページ
次へ
そこは、大きな病院でした。 『健次、お前には黙っていたが、お父さんには、好きな人がいてな・・・』 道中の車の中で、お父さんは、全てをケンジに話しました。 出張で地方へ行くことも度々あり、その先の店で出逢った女性と、愛し合う仲になっていたのでした。 時々電話で楽しそうに話しているお父さんを見て、健次も薄々感じてはいた様子でした。 『だいじょうぶだよ、お父さん。僕は信じてるから。』 それが、ケンジの答えでした。 病室に入ると、包帯を巻いた女性がベッドで眠っていました。 私は、少し開いたチャックの隙間から、その光景を見ていました。 『峰崎さん・・・。』 『ママ。』 その女性は、ベッドにいる女性の勤め先のオーナーでした。 『遠いところをすいません。昨日、運悪く交通事故に合って・・・。彼女には身寄りがなく、あなたしか頼る人はいないものですから。』 『いえ。連絡をありがとうございました。で、容態は?』 『はい。命に別状はありません。ただ・・・』 その時、彼女が目を覚ましました。 『早苗さん!。』 お父さんが近づいて、顔を覗き込みました。 『・・・?』 『早苗さん。大変だったね。心配はいらないよ。私がちゃんと・・・』 『あなたは・・・誰?』 『・・・!?』 彼女は記憶を失っていました。体の方も重症で、少なくとも一年は、ここで寝たきりが続くとのことでした。 『そ…そんな…。』 『峰崎さん…。医者は、恐らく一次的なものだと言っていました。』 お父さんの目から、ジワジワと雫がこぼれてきました。 (あっ、涙・・・。人も悲しいとああなるんだ・・・。) 病室を出てからのお父さんは、ひどくがっかりした様子で、ホテルに着くまで、何も喋ることはありませんでした。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

303人が本棚に入れています
本棚に追加