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【4】Birthdayの別れ
家族3人と一匹は、楽しく毎日を過ごしていました。
しかし、その年の瀬が押し詰まった頃、お父さんは、事業に失敗し、大きな損害を被ったのです。
ネコの私には、その深刻さは分かりませんでしたが、大好きな煮付け(高級ネコ缶)を食べることがなくなり、カツオ風味のカリカリ(キャットフード)ばかりになっていきました。
そんな私に、ケンジとミキは、おかずを残しては、食べさせてくれました。
お父さんは、苦労の日々を過ごしていました。
ある日の夜、私はいつもの様に、カリカリを食べに、専用の食卓へ…。
すると。
(んにゃ!?)
そこには、私の大好物のお刺身がありました。
その瞬間。
「パーン!パン!パーン!」
クラッカーというものが、けたたましく鳴り響きました。
クモの巣をかぶった様な状態で、目玉がこぼれんばかりに驚いた私。
『アハハ。レイったらそんなに驚いて!』
(そりゃ驚くさ!ネコにクラッカーは反則!!)
その日は、ケンジのお母さんの誕生日でした。
ケンジの提案で、その日を私の誕生日にしてくれたのでした。
自分たちでさえ、お刺身なんて食べていないのに、私の為に買ってくれたのでした。
『レイ、お前がいてくれて助かったよ。お前のおかげで、健次も美樹も楽しくやれてるんだ。ありがとう。これは、みんなからのプレゼントだ。』
そう言って、お父さんは、私の首に、綺麗なブルーの首輪を着けてくれたのです。
(そんな・・・。こっちこそ、汚れた捨てネコのボクを拾ってもらって・・・。こんなに優しくしてもらって・・・。)
その時、人が大切にしている「愛」というものを感じた気がしました。
『お父さん。レイが泣いてるよ。』
『バカ言うな、ネコが泣くわけないさ。』
(泣くのです。)
『でも、首輪って窮屈じゃない?』
『あのな健次、オス猫ってのはな、年頃になると、可愛い女の子に夢中になりすぎて、帰り道を忘れることがあるんだ。首輪をしてれば、野良猫と間違われることがないから、安全なんだよ。まぁ、もっとも、レイがもてればの話だがな。ハハハ。』
みんなが笑っていました。
これが、この家で聞こえた、最後の笑い声になるとは、誰も思いませんでした。
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