反逆と旅立ち

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「アイシス、そこを退け。俺は父を斬る」 「邪魔じゃアイシス。反乱を企てし者には、例えそれが息子であろうとも、死あるのみ」  アイシスは泣いた。その綺麗な顔をくしゃくしゃにして、なぜ?と。 「なぜですか…なぜ実の親子が殺しあわなければならないのですか?」 「アイシス、もう俺は民を苦しめ続ける父を王とは思わない」  そう、王とは民のためにあるべきだ。  民があってこその王、民無くして国は成り立たない。 「お父様、私からも言わせてください…どうか、昔のお父様に戻ってください。昔の優しかったお父様に」  アイシスは崩れ落ちるように、冷たい石畳の床に膝をつき、わんわんと泣きじゃくった。  アイシスは誰よりも優しい。まるで慈愛の女神のように。  そんなアイシスにとって親子が殺し合うなんて現実、見たくはなかっただろう。 「儂は悲しい、アイシスまでもが乱心するとはな…」  父は言った、悲しいと。  しかしその濁った目は、悲しさに暮れてなどはいなかった。   「ならばフィンより先にアイシス、貴様を冥土へ送ってやるわ!!」 「危ない!!」  ザンッと刃が皮膚を切り裂く音がした。  魔剣ミストルテインの凶刃が俺の背を走ったのだ。 「ふんっ、邪魔をしおって。ならば二人まとめて食らえい『ボルガノン』!!」  ブラッドの掌から炎属性最強の魔法が放たれた。 「ぐあああっ!!」 「きゃぁぁっ!!」  この世のものとは思えない、凄まじい火炎が俺とアイシスを大扉の前まで吹き飛ばした。 「ぐうっ…アイシス、逃げろ…」  俺は今の一撃で悟った、この男に負けると。  その時、アイシスを守ってやれる者はいない。  しかしアイシスは、必死に懇願してきた。 「お兄様を置いて逃げるなんて嫌です!!」 「いいから行け!!」  嫌がるアイシスを有無を言わせず怒鳴りつけ、ブラッドに向かって突進した。  渾身の魔力を刀身に混め、必殺の魔法剣を放つ。 「いーから逃げろアイシス!!ブラッド覚悟!!」 「逃げられるはずがなかろう!!」
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