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「あぁ、煙幕が晴れぬうちにひとまず逃げるぞ!!」
煙幕で視界が遮られたと同時に煙を吸い込んでしまったか、ごほっごほっと、玉座の方からブラッドが咳き込んでいるようだ。
今が絶好の好機、この隙にひとまずは逃げるしかない。
「ぬうっ、小癪なっ…衛兵、出合えい!!」
ブラッドの叫びにただちに集結する親衛隊の騎士達。
長い廻廊を必死で走る俺達の後を、やはりあちらも必死に追ってくる。
「舐めてくれるわね。あなた達に遅れを取るほど、腕は鈍っていないわ」
レイナが駆ける足をぴたと止め、踵を翻しグングニルを構える。
「『ディフュージョン・ランサー』!!」
槍の切っ先に渾身の魔力を集結させ放つ、レイナ必殺の魔法剣が衛兵らに牙を剥く。
まるで雨のように広範囲に及ぶ小さな刃型の魔力の塊が、廻廊内を所狭しと乱れ飛んだ。
たまらず足を止め防御に徹した衛兵らも、その威力にこらえきれず、構えた盾ごと吹っ飛ぶ。
「さぁ行きましょう、城外の岸に船を碇泊させています。」
用意周到とゆう言葉は、まさに此を指すのだろう。
レイナは玉座の間に駆け付ける前に、既に様子を察して逃げる段取りを立てていたのだ。
「頼りになるな、レイナは」
駆ける足を止めはせず、最高の腹心を称讃した。
「本当に。私なんて何も考えずに飛び出してしまいました」
少しばかり複雑そうな陰りを表情に出すアイシス。
「私はフィン様の腹心ですから、常に考えることはフィン様のことです」
少し困ったように照れ笑いを浮かべながら、レイナが言った。
追っ手は撒けたようで、全力で城門へと駆ける俺達の後ろには、誰も追いついてはこなかった。
長い廻廊と階段をただひた走る。
やがてグランヴェールが誇る超巨大門に到達した。
「さぁ、外はすぐそこだ」
俺が開閉装置のレバーを下げると、内部の歯車がぎぎぎぎと大きな音を轟かせ、徐々に門が開いてゆく。
俺達はその門をくぐり抜け、岸壁に碇泊していた舟に飛び乗った。
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