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しかし、舟に飛び乗った瞬間、その声は聞こえた。
「残念だったな蟻ども。逃げられるとでも思ったのか?」
ブラッドだ。大門が開くまでの時間、その間に衛兵らと共に追いついてきていた。
「レイナ、舟を出してくれ。アイシス、追っ手を倒すぞ」
船の操舵なんてことは、常に部下に任せてきた俺とアイシスには、到底できぬ話。
船首に立つと早速、衛兵らの放った大砲の砲弾が、雨のように降り注いだ。
「お兄様、伏せて『マテリアルシルド』!!」
アイシスが咄嗟に魔法結界を張る。対物理攻撃に関しては最強の防御力を誇る魔法結界が、降り注ぐ砲弾の雨から舟を守る。
大砲が防がれると次は、炎やら氷やらの攻撃魔法を放ってきた。
「結界を解けアイシス。『エルファイア』!!」
アイシスが結界を解いたと同時に、俺が広範囲に炎の魔法を放つ。
衛兵が放った炎属性の魔法は相殺され、冷属性の魔法は炎に打ち消された。
そして遂に、どるるるとけたたましい動力音を上げて、舟が動き出した。
どんどん岸壁から離れてゆく船体。
「よし、逃げ切れるぞ」
ホッと、胸を撫で下ろし、安堵した時だった。
アイシスが岸壁に聳える城を指差し叫んだ。
「あれを見て、お兄様!!」
アイシスの指差す方向に目を向けた。
「な…何だアレは」
俄かには信じられぬ光景が俺とアイシスの目に映った。
両の腕を上に掲げ、何かを叫ぶブラッド。
それに呼応するかのように呻き苦しみ、膝をつく衛兵達。
そして、衛兵達の様子が急激に変化し始めた。
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